第五テーマ館 根源から「お金」を問う
この一見あたりまえと思われていることに、エンデは生涯を通じて疑問をなげかけてきました。
有名な「モモ」も、エンデのこうした問いかけのひとつです。
エンデはあまり知られていないひとりの経済学者、シルビオ・ゲゼルの理論に注目しました。
それは、もし「お金」も他の自然や人間の作ったものと同じように、時間とともに価値が減少していくとしたら?
という考えです。
地域通貨(エコマネー)とは
「地域通貨とは、限定された地域でしか使えない通貨であり、法律で定められた国家通貨である円やドル、ユーロ
等に対する言葉です。
他にも補完通貨とか自主通貨、自由通貨、会員制通貨、コミュニティー通貨、グリーンドル、エコマネー、オリジナル
マネーなどと呼ばれています。
(「だれでもわかる地域通貨」森野栄一監修、北斗出版 36ページより)
地域通貨のもうひとつの特徴は、利子のつかないお金ということです。
一部、利子がつかないだけではなく時間とともに「減価(価値が下がる)」する地域通貨もありますが、現在普及してい
る大半は、持っていても利子がつかない、つまり蓄財価値はあまりないこのタイプのものです。
(もっとも、利子がつかないというだけでは、現在の銀行預金もほとんど同じになってしまっていますが。)
地域通貨でなにが変わるのか
よく、地域通貨を、なにか便利な通貨としてばかりとらえられる傾向がありますが、地域通 貨でもっとも重要なの
は、国の通貨に頼らない人と人との関係をきずくことにあります。
この仕事、この用事、この品物をどうしようか、誰にたのももうか、誰に使ってもらおうか、
等などの日常の様々なことがらが、自分の今住んでいる地域内で済ませられることであれば、
あの人に頼めばできる、私ならこれがしてあげられる、といったような地域の関係をたくさん築いていくことにこそ地域
通貨の核心部分があるのだと思います。
これは、出だしは一見大変な作業をともないますが、この流れをつくることができれば、地域のコミュニケーション自
体をとても生きた関係にすることができます。
地域通貨を運用し成功するには、地域コミュニティー作りの基本構想を
はっきりさせ、しっかりした運営管理者の存在が不可欠。
地域通貨は、決してそれを導入しさえすれば何かが変わるといったような自動装置ではありません。
無人格な従来の貨幣と異なって、抽象的な量でのみ交換の仲立ちをするのではなく、常に具体的な労働やものの価
値を対応させるところに大事な特徴があります。
したがって、地域通貨の管理者は、お金の流通管理業務だけではなく、どこそこに住んでいる誰それさんのあの能力
を欲しがっているひとが、どこそこにいるといった、具体的な人と人との仲介がなによりも大切な仕事になります。
安易に自治体主導で、街づくりの一方策としてブームにのって導入して成功できるようなものではありません。
しっかりと、どうのようなコミュニティーを築き上げるのかイメージをもって取り組むことが重要です。
地域通貨は現行通貨のグローバルな機能と共存、分業が必要。
地域通貨は現行通貨に単純にとって代わるようなものではありません。
現行通貨も様々な問題はあるものの、信用や付加価値、期待値を「利子」という方法で表現すること自体、すべて間
違っているわけではありません。
ただ、グローバル化一本やりの世の中が非常に脆弱な経済構造になってしまっていることは確かで、「剥き出しの資
本主義」といわれる社会のなかでも、より多くの人々がもっと豊かに、自由に暮らせる社会を築くために役立つシステム であるといえます。
しかし、世界各地での経験から、以下のことにも同時に気づき始めました
れる社会現象とさえなっています。大学での卒業論文のテーマにもなり、各自治体からは国内外の実践現場への視察 が相次ぎ、一部大企業も熱い関心を寄せています。しかし、そのようなムーヴメントには少し危なっかしいところもある ように感じていました。地域通貨は、地域振興の切り札であるとか、コミュニティーを創造するシステムだとか、そんなう まい話ではないのです。地域通貨がもっている可能性はシステムからくるのではなく、個人にあると考えていま す。
地域通貨は、参加する人の問題意識や理想、思惑をそのまま映し出します。硬直化した組織がなかなか改革されない
日本では、個人の夢を自由に乗せられる社会システムがあまりないことも事実です。何しろ「お金」を市民が発行できる という発想の大転換がそこにあるのですから。」 (坂本龍一+河邑厚徳『エンデの警鐘』NHK出版あと がきより)
ミヒャエル・エンデが日本人への遺言として残した一本のテープ(1994年)をもとに作られたNHKの番組「エンデの遺
言―根源からお金を問う」(NHKエンタープライズとプロダクション「グループ現代」制作、1999年5月4日放送)は、大変な反響 をよびました。
そして、その番組をもとに作られた「エンデの遺言―根源からお金を問うこと」NHK出版は、決してベストセラーになる
ような本ではありませんが、今世紀の前半を通じて重要なキーをなす1冊になることに間違いはありません。
このような本の価値こそ、書店店頭だけではなく、ホームページなどのネット上で長期的に普及させる価値のあるもの
と考え、当テーマ館のひとつの柱に加えました。
当然これを機会に、エンデの「モモ」をもう一度読み直してみようという人や、エコマネー(地域通貨)を自分の地域で
も是非試みてみようという人が増えていくことを望むものです。
オンケン氏はエンデ宛に「貨幣制度改革が『モモ』の中で表現されている印象をうけた」という書簡を送った。それに対し、エンデは「それこそがこ
の本のテーマです。……老化する貨幣が私の本『モモ』の背景にあることに気づいたのは、あなたがはじめてです。シュタイナーとゲゼルの考えを この数年間、集中的に学びました。そして、貨幣の問題が解決されなければ、私たちの文化に関する問題は解決されないことに気づきました。」
ヴェルナー・オンケン 著 宮坂英一 訳
「経済学者のための『モモ』入門」
『自由経済研究 第14号』ぱる出版 7ページより
生れる社会現象とさえなっています。大学での卒業論文のテーマにもなり、各自治体からは国内外の実践現場への視 察が相次ぎ、一部大企業も熱い関心を寄せています。しかし、そのようなムーヴメントには少し危なっかしいところもあ るように感じていました。地域通貨は、地域振興の切り札であるとか、コミュニティーを創造するシステムだとか、そんな うまい話ではないのです。地域通貨がもっている可能性はシステムからくるのではなく、個人にあると考えています。 日本では、個人の夢を自由に乗せられる社会システムがあまりないことも事実です。何しろ「お金」を市民が発行できる という発想の大転換がそこにあるのですから。」 中心とした実体経済からかけ離れたマネーゲームの危機は、深刻さを増すばかりです。「剥き出しの」資本主義経済に 対する反感や批判が高まるものの、次の時代を担う社会像はまったく見えてきません。 だきます。 ことと、自分一人のなかでどう同居させたらいいのかわからないでいます。
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