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マタギに学ぶ自然生活
(2013/07/21更新)



 近年、アウトドアレジャーや中高年の登山などが盛んなことは、とても歓迎されるべきことですが、
どうしても都会人が観光気分で参加するアウトドアばかりが溢れ、本来の自然のなかでの営みとしての自然観がかえりみられないのが、
群馬の山中に暮らす人間としては不満がのこるばかりです。

 地元からすれば、これといった産業のない地域では経済的に観光にたよらなければ、
地方の衰退、荒廃から守りきれない面もあるのですが、観光産業が第一次的になってしまうと、
本来の自然をはじめとするその地の生活基盤は食い尽くされるばかりで、
膨大な「環境の飾りつけ予算」を伴わないとその環境は維持できなくなってしまいます。

「豊かな山」「豊かな自然」といったものをみると、必ずそこにその自然の循環を担っているたくさんの動物や植物、
そして人間の働きが存在しています。
 今、観光やレジャー以外で、山の中で働いている人の数がとても少ないのは、自然にとって危険な事態であるといえます。
 人口も経済規模も爆発的に拡大してしまった人間社会をかかえた現代では、ユートピア的な自然観を語っても無力な時代かもしれませんが、
人間とあらゆる自然界の生き物が力をあわせて自然の循環生態系を維持できるよう努力することは急務なことです。


 そうしたことを考えれば考えるほど、今私たちが「マタギ」の生活や自然観から学ぶことが、
実にたくさんあるように思えてなりません。古来の様々な労働の姿のなかでも、
マタギの生活はかなり特異な方ですが、それだけに厳しい自然に接する姿勢、
めぐみの豊かな自然を維持するための様々な掟など、強く現代の私たちに訴えかけてくるものがあります。

 もちろん、マタギは東北地方のみに特有のしきたりをもって受け継がれた人びとであり、
群馬の猟師とはまったく異質といってもいいような習慣をもっています。
  「上州マタギ」といった呼び方を耳にすることもありますが、あくまでも東北マタギから連想した俗称であり、
上州の猟師をマタギと称することは正しい表現とはいえないと思います。

 かといって、東北マタギが特定の家柄で世襲されたような集団であるともいえません。

 その姿は、地域によって、また時代によって様々に変遷していると言わねばなりません。


 マタギ以外の日本各地の猟師たちは、その地方ごとにあるていどの特徴はあるものの、
マタギほど確たる形を確立して守り続けた地域はありません。

 (ここで区別したマタギとは、様々な形態がありながらも、
積雪紀・残雪期の山で集団猟のスタイルをもっている集団と、仮に定義します。)

 それだけに、マタギ特有のその様々な厳しいしきたりによって受け継がれてきた形のなかにこそ、
マタギ固有の特殊性に還元できない、自然と人間のあるべき姿の教えを見て取ることができます。

 マタギたちの生活は、今に比べたらはるかに豊かな自然に囲まれた生活であったにもかかわらず、
現代人と比べものにならないほど、自然の循環、再生産に気をくばったものでした。
 それが、マタギのいた時代と比較できないほど貴重で危機に瀕した自然に直面した今の私たちは、
未だに自然の破壊と浪費から抜け切れません。



宮沢賢治 作 中村道雄 絵  『なめとこやまの熊』  偕成社 

ほかに生きていくてだてを持たぬがために
しかたなく熊を殺して生計をたてていた熊うちの名人が
やはり、人を殺したくて殺すのではない熊のために
命をおとします。

人間世界を修羅とみて、その克服を求めた賢治の
これは未完成ながら名作の1つ

これを
数十種類の木の肌合いと木目とを選んで
絵の各部分をかたぬきし、組み合わせていく
中村道雄独特の手法の“組み木絵”で絵本化。





 祈りとともに男が働き、家族と苦労をともにしながら、ひとつの生活習慣を代々受け継いでいく姿は、
世界いたるところでみられる人間の基本的な美しさであると思います。




以下のマタギなどに関する本を通じて
観光・レジャーの面からではない「豊かな自然」について
考えてみたいと思います。





根深誠『山の人生 マタギの村から』 中公文庫 857円+税







武藤鉄城 著 『秋田マタギ聞書』
慶友社(1969) 増補版(1997/05)   定価 本体3,800円+税



田口洋美 著 『マタギ―森と狩人の記録』
慶友社(1994/04)    定価 本体3,800円+税

     

慶友社からは他にも、田口洋美 著『マタギを追う旅 ブナ林の狩と生活』 本体3,800円





田口洋美 著  越後三面山人記  マタギの自然観に習う

農山漁村文化協会(2001/02)   人間選書 定価 本体1,857円+税  定価 本体2,728円+税

 三面という地域は、秋山郷などとともに、民俗学者などの関心を多く集めているスポットでもあります。なかでも三面川の上流のマタギなどの山
で生活する者と下流で漁などをしている者が一つの川を通じて塩の交換で結ばれていたことが有名です。
 山奥の人々がブナなどの木(ショッキ、ショーキ、シオキなどと呼ぶ)を下流の浜に流し、塩を焼いていた歴史が、ダムができるまでありました。
 塩木流しが川を荒らしていた事実もありますが、塩木として伐る山は五十年ごとに決めて伐っていたことなど、その地で生活する人びとの伝承の
なかに無茶な開発は行なっていないことがうかがわれます。




    
志田忠儀・西澤信雄 著  朝日連峰の狩人   朝日の番人が語る山と動物たち
山と渓谷社(1991/09)  定価 本体1,456円+税



  

太田雄治 著 マタギ 消えゆく山人の記録
慶友社(1997/06)  定価 本体2,800円+税

マタギの捕獲効率のこと
「1993年の4月に行なわれた春のクマ狩りでは、23頭の捕獲に参加した人員は、延べ25名であるから、1頭平均約35.9人である。春のクマ狩り
に参加する人員は、通常一班当たり1日10〜13名が平均であるから、1頭を捕獲するためにマタギは平均三日ほど山を歩いている計算になる。
効率の悪いときには、4、5日山を歩いて1頭獲れるか獲れないか、ということになる。しかもこの統計資料には、猟にでるための下見に山へ入った
人員は含まれていないため、すべての作業効率を勘案すると1頭のツキノワグマを捕獲するためには一人当たり4〜6日の時間をとられるというこ
とになる。」
 佐藤 宏之編 『小国マタギ 共生の民俗知』 農文協
    第4章 伝統的クマ猟は持続的に継続することが可能か 花井正光・田口洋美・栗城幸介共著より




田中康弘 著   マタギ 矛盾なき労働と食文化
出版社(2009/04)    定価 本体1,500円+税

豊富な写真で現代のマタギの営みを紹介。おすすめの1冊。

マタギ 矛盾なき労働と食文化


  

佐藤宏之 編  小国マタギ共生の民俗知
農山漁村文化協会(2004/03)  定価 本体2,800円+税
「本書は、旧来の民俗学を主体としたマタギ論の書ではない。これまでの民俗学の手法では、もっぱら伝承を調査主体とするため、地域住民の歴
史的背景やその経路、暮らしてきた地域の環境や自然条件、さらには往時の政治経済的な外的条件等を、やyもすると等閑視してきた。確かに住
民の意識や思想は伝承に直接込められていると考えることはできるが、その内容を理解し解釈するためには、地域住民がすでに忘れ去ってしまっ
た歴史環境条件をも同時に知らなければならない。地域に生きる生活者との応答は、聞き取りだけではなしえないのではないか。地域に生きてき
た知恵の体系を、伝統文化として個別に保存したりノスタルジックな憧憬の対象とするだけでは、都市の論理に立った一元的価値観の側からする
一方的なまなざしに終始することになる。」
      (本書 序章より)





狩野 順司 著   群馬藤原郷と最後の熊捕り名人
文芸社(2010/02)    定価 本体1,100円+税

吉野さんは、松葉 豊 著『俺の仕事は俺一代』のなかでも紹介されています。 
マタギではない熊捕り名人の話



 酒井正保 著 上州最後のマタギたち 聞き書き
群馬県文化事業振興会  定価 本体2,300円+税
1、松井田町入山の狩猟(熊猟他) 2、片品村の狩猟(雪舟猟他) 3、上野村の狩猟(鹿猟他) 4、根利村の狩猟(バンドリ猟他)
  5、下仁田町岩山の狩猟(キツネ猟他)  6、中里村(現神流町)(ハデー猟他) 7、南牧村の狩猟(テンマル猟他)  
8、桐生市梅田の狩猟(ツグミ猟他)  9、水上町藤原の狩猟(カモシカ猟他)





平野 惣吉 著  山人(やもうど)の賦(うた) T、U、V   尾瀬・奥只見の猟師とケモノたち
白日社(1984/11)

 東北地方のマタギと異なって、群馬、新潟、福島、長野にまたがる山人の狩りは、明確なしきたりや狩りの方法など確立しているわけではない
ので、各地方、各人の個人的な経験に負うやや非効率な面もみられる。それだけにこうした本による、ひとりひとりの聞き取り調査は、人一倍、貴
重な価値をもつともいえます。

 「だからヘエナラなった年のクマはとりやすいだ。ハゲさついて、そこで幾日も遊んでいるだから。ブナ年のクマはとりにくい。春になると大木の根
の周りが早くあくから、ブナの木の根のそういうところばかり探して歩くから、ずーっと行ってしまって、とるにくでえだ。それからブナ年のクマという
は、とても体が利いて強えだ。ブナの実は栄養があるだかなあ、逃げるのも速えだ。ナラ年のクマはそれほど強くねえから、後から追って取るに楽
だがな。そうしてブナ年のクマは春になっても、穴から早く出るだ。二月の末頃には出ることもある。早く出ても昨年のブナの実があるの知ってるだ
かなんだかなあ」                   (T巻 127ページより)




山田 亀太郎・ハルエ 述著  山と猟師と焼畑の谷 秋山郷に生きた猟師の詩
白日社(1983/09)  定価 本体2,136円+税

 秋山郷に関しては、わりあい多くの研究者がその民族調査をおこなっていますが、群馬からみてもとても関わりの深い地域です。熊や手ごろな
現金収入につながるバンドリ(ムササビやモモンガなどのこと、晩になってから飛ぶことからついた呼び方)を追って新潟、長野、群馬の山々を歩
く。なかでも群馬の山は、「山が大きい」ことから、熊を追ってはるばる辿ってくることも多いという。白根、草津まで山を越えてきて、途中で得た獲
物を売り、こちらの里の産物を購入して帰っていく。
 また、戦争という時代のながれも、山の奥深くで生活するひとびとまで容赦なくやってくる。
 今日でも奥深い山々に囲まれた貴重な自然のある地域の民俗誌。




山本福義・南雲藤治郎 著  山と猟師とケモノたち
白日社(1979/11)   定価 本体2,000円+税

 猿を撃つことは、とてもイヤなものだそうですが、本書のなかで子連れの猿を撃ってしまい、死んだ母猿から離れずに鳴き続ける子猿を見てから
鑑札をやめてしまい、翌年から鉄砲をおいてしまった話がでています。魚の陶芸家 松尾昭典さんもこの話だけを目当てに本書を買われたという
話を聞きました。

 本書に関連した余談ですが、マタギが狩でよく使用した銃は村田銃です。時々、肝心なときに不発であったりするので、あまりこの銃を信用しな
いマタギもいました。また寒マタギの場合は、銃声が表層雪崩を引き起こす危険もあるので、銃を使用せずマタギの道具である小長柄で撲殺して
仕留めることが多かったといいます。
 しかし、明治期の日本にあっては、この銃がいかに画期的であったか、吉村昭の『虹の翼』のなかに出てきます。
 村田経芳(つねよし)。鹿児島県生まれのかれは、射撃の名手としてその名を知られていましたが、まだイギリス製のスナイドル銃に頼っていた
日本でなんとか国産の銃はつくれないかと試作を重ねていました。明治12年末、村田経芳は陸軍少佐に昇進したおり、陸軍省に設計図を提出
し、試作銃を制作してもらう。結果、予想を超えて外国の最新鋭の小銃と比較して、諸性能がいずれも優れ、軽量でもあることからすぐに採用が決
まる。
 またしても、開国まもない時期に外国の技術をいち早く消化し、より優れたものを生み出す明治人がここにいた。

東郷隆『狙うて候 銃豪 村田経芳の生涯』実業之日本社(2003/09)
  

 日清・日露戦争と軍備増強が進むなか、この画期的な村田銃も三八式歩兵銃の普及とともにマタギなどの猟師たちに大量に払い下げられた。し
かし、太平洋戦争末期にもなると、あらゆる軍備が不足しだし、再びこの村田銃が補充されるまでになった。
 この村田銃の普及が、一般人の狩猟参加の機会を増やし、狩猟がそれまでの山間に住む人々だけの専業でなくなり、狩猟人口の急激な増加
をもたらし、同時にマタギなどの専業人口を激減させていくきっかけにもなったと言われます。



   

聞き書き 群馬の食事  日本の食生活全集 10
「日本の食生活全集 群馬」編集委員会 代表 志田俊子
農山漁村文化協会(1990/06)  定価 本体2,762円+税

 こうした本に自分が興味をもつようになるとは思いませんでしたが、本書のなかに「上州の熊猟と川魚」という章があり、「上州マタギ―熊猟の
秘伝と獲物の利用」なるページがありました。
 熊の棲息数の推定について以下のような興味深い叙述がありました。
 「上(群馬)、磐(福島)、越(新潟)の国境地帯には「約200頭の熊が棲むといわれている。その200頭のうち半分の100頭が雌。その半数の50
頭が子を生むとすると、一頭につき二頭の子を持つのが多いから、年間100頭は生まれる。うち50頭もとられることはないようである。熊の寿命
は25年くらいであるが、このようなおおざっぱな計算をしてみて、その棲息頭数はそう減ることはないとみている。」

「群馬の食事」の本の紹介のところには相応しくありませんが、熊の生息数の話ついでにマタギの本拠地山形と比較したらどんなものか?
「山形県猟友会がまとめているツキノワグマの捕獲数についての資料によれば、1975年から1994年にいたる20年間に捕獲されたクマの総数は
2879頭で、年平均捕獲数は144頭となっている。(略)小国町域でのツキノワグマの年間捕獲数は、おしなべて山形県全域の4分の1ほどに相当
しており、当該地域のツキノワグマ捕獲数が他に比べ格段に多いことが理解できる。
   佐藤 宏之編 『小国マタギ 共生の民俗知』 農文協
    第4章 伝統的クマ猟は持続的に継続することが可能か 花井正光・田口洋美・栗城幸介共著より

 本州、四国、九州に生息しているツキノワグマの生息数は全体で1万から15000頭と推定されているそうです。
 そのうち約4800頭が東北6県に生息し、毎年約700頭が有害駆除と狩猟で捕獲されているとのこと。




野添憲治 著  みちのく 民の語り
社会詳論社(2006/06より刊行)  定価 各巻 本体2,300〜2,500円+税


第1巻 マタギを生業にした人たち
第2巻 みちのく職人衆
第3巻 秋田杉を運んだ人たち
第4巻 出稼ぎ 少年伐採夫の記録
第5巻 塩っぱい河をわたる ある開拓農民の記録
第6巻 大地に挑む東北農民

第1巻は、民俗学の宝庫・秋田県阿仁町に仮住まいをかまえ、次第にうちとけながらの聞き書き、自然観察を通し、マタギを生業とした人びとの姿
を紹介する。熊と雪に囲まれた生き方を、優しい筆致でゆっくりと描き、過疎地帯の現状を報告する。(同社解説パンフより)
 マタギという生業がいかに受け継がれてきたかは、単にその内部の風習を観察するだけではなく、その地域と周辺の広い自然的、経済的交流
の姿を通じてとらえなければなりません。聞き書きの作法ともいえるスタイルを確立している著者ならではの作品集です。
     





マタギの巻物について


 マタギが持っていたり、東北地方の各地見つかっている巻物は精粗様々であり、巻物の体裁をとるもの、一枚紙に書
いたもの、ああるいは帳面式に綴ったものなど、形式も様々で、そのすべてをひとくくりに決め付けることはできないで
しょうが、大きくわけて二つに分けられるといいます。

 一つは狩人の祖として万次磐三郎、あるいは万三郎なる人物を説き、この人弓矢の名人として日光権現を助けまいらせ、全国の山々谷々どこで
も狩りをしてよろしい、また獣肉をたべてもけがれないという許しを得たと説くものである。民俗学の方では通例この系統に「日光派文書」の名を与
えている。
 いま一つの由来は、狩人の祖となった者は安田尊であって、昔弘法大師が高野山を開くとき協力した功により、野獣の霊魂を救う引導の法をさ
ずけられたという内容をもつ。これを通例「高野派文書」と呼ぶことにしている。



この「日光派文書」が、群馬との関わりでも、とても興味深い内容を持っています。

 その内容の大体をいうと、昔万字万三郎という人があり、もともと祖先は皇室より出たが流浪して下野日光山の麓に住み、鳥獣を射て生計を立
てていた。そこで弓の名手といわれ空飛ぶ鳥ものがさぬ人と名が高かったが、ある時、山中で白い鹿を見て三日三夜これを追ったところ、何度矢
を射ても当たらず、ついに日光社前まで追って行った。ところがたちまち白鹿は失せて日光大権現の姿となり、「万三郎よ、汝をここまで連れてき
たのは自分である。自分は年来赤城山の神と争っているが勝つことができない。我が姿は蛇、赤城は大百足であるので尋常では勝てぬ。汝は天
下の弓の上手であるから、我を助けて赤城を射よ。」と仰せられる。万三郎が謹んで命に従うことを申し上げると、白木の弓と白羽の矢二本下さっ
て、いついつつぎの合戦があると告げられた。

 さてその日ともなれば大風雷電して天もくらくなる。そのなかに赤城明神の姿が現われるのを、万三郎かの弓と矢で射て見事に明神の両眼に射
当てた。このため赤城明神は戦に負けて引き返す。日光権現大いに喜び給い、万三郎に日本国中山々岳々どこで狩りをして差支えないと許可を
与えられた。

                      千葉徳爾 著 『狩猟伝承』 法政大学出版(1975/02) 





 さらに面白く不思議なのは、この「日光派文書」が、日光地方ではまったく見つかっておらず、会津から北の、日光山
の信仰とあまりかかわりのない地方で、しかも狩人の由来記としてだけ通用した点です。

 マタギにとって、この文書は、生涯見ることも無いお守りだけの役割しかもたない例も多くありますが、多くの原本の製
作推定時期が元禄から享保という幕藩体制の完成期に当たっており、一所不在の狩猟集団の通行手形の役割ももっ
ていたのではないかと思われます。


マタギに限定しない熊との関わりの歴史については、アイヌ、オホーツク文化圏の歴史を調べた、次の本がありまし
た。



天野哲也 著 『クマ祭りの起源』
雄山閣(2003/11) 定価 本体2,800円+税



      

ネリー・ナウマン著    山の神
野村伸一・檜枝陽一郎 共訳
言叢社(1994/10)   定価 本体7,718円+税




後藤興善  『又鬼と山窩』 
批評社(1989/08) 定価 本体3,800円+税
昭和初期、柳田國男などとともに民俗学研究のさきがけとして世に出た貴重な本で、写真は批評社から復刻刊行されたものです。
復刻版は古書でけっこう入手できます。




遠藤ケイ 著  おこぜの空耳   山界風聞―願わくば之を語りて平地人を戦慄せしめよ

かや書房(1991/10)   定価 本体1,748円+税     
これは私が大好きな本   

マタギに学ぶ登山技術
  山のプロが教える古くて新しい知恵
工藤隆雄 著 木部一樹 絵
山と渓谷社(1991/06)
定価 本体777円+税 品切れ重版予定無し
 マタギの登山技術は、まず第一に人間の姿、痕跡を見せないこと、残さないことにあります。
それこそ、あるがままの山の幸を残す自然保護に徹した生き方でありますが、それは同時に、強靭な体力を持ってこそなしうる側面をもつと同時に、無駄な動きをしないという合理的側面も持っています。
 本書を読んだだけで、登山道脇のコケですら、迂闊に踏まない心構えができます。

古書はとても人気のあるものなので、在庫はすぐに無くなってしまいます。
山と渓谷社がシリーズのなかの1冊としてではなく、単独の作品として復刊してくれれば、結構人気の作品になると思います。


ちょっと強引な関連付けですが、次の本はとても面白いのでここで紹介させていただきます。
「生命体としてなまなましく生きたい」著者は、食料も燃料もテントも持たず、ケモノのように一人奥深い山へ分け入る。ちょっとしたユーモアもあり、おすすめの1冊です。
服部文祥 著 『サバイバル登山家』
みすず書房(2006/06)
定価 本体2,400円+税
著者いわく、「僕は街にいると、自分がお金を払って生かされているお客さんのような気がして、ときどきむしょうに恥ずかしくなる」
 



俺の仕事は俺一代  利根川源流の男たち
松葉 豊 著
水曜社(1999/11) 品切れ
定価 本体2,000円+税
 藤原郷に生まれ育った山の男たちの様々な生きざまを取材した本。
 沢わさびの生産で生計をたてる林正三さんは、かつて落語の桂歌丸師匠が釣りに訪れ、水に濡れガタガタふるえているところ、水に浸かった木でみごとに火をおこしてみせて、まわりを驚かせたはなし。
 熊狩りの名人、吉野秀一さんは昭和24年の秋から翌年の春にかけて、ワンシーズン32頭の熊を仕留めたことのある、全国でもおそらくトップクラスの実績者。その背景に、吉野さんがいかに藤原の地形や気候、熊の習性を細かく観察してきたか、リアルに語ってくれている。さらには藤原地方がかつて豊かなブナ林をもつ熊の生息にとても適した地であったことが、吉野さんの記録をささえていたことも知らされる。しかし、今では山奥でも絶えず人間の姿や音が絶えないので、熊の習性も昔とは変わってしまったという。
 この本は、一見、地元中心に自費出版されたかのように見られそうですが、かつて一般書店で流通していた本です。


山の仕事、山の暮らし
高桑信一 著
つり人社(2002/12)
定価 本体2,400円+税

 渓流釣り、沢登りで有名な著者は、最近こうした山村の暮らしの取材活動の一層活発に行なうようになってきた。男のシブミも一際ましてきた感じ。
  
 高桑氏といえば、雑誌「岳人」に連載した足尾山塊の廃村の取材もとてもいい仕事をされて、単行本化が待ち望まれていましたが、
  
  『古道巡礼』
東京新聞社(2005/01) 定価 本体2,000円+税
参照ページ上州の古道・諸街道として出版されました。



邂逅の森
熊谷達也
文藝春秋(2004/01)
定価 本体2,000円+税
おすすめ度★★★★★
著者は前著『山背郷』で、東北地方を題材にとった厳しい自然のなかで、様々な生業を営む男たちの姿を丹念な取材で描き、民俗学会からも注目されている作家。
浅田次郎が帯の推薦文に「本書は去勢された男たちのための、回復と覚醒の妙薬である。男とは本来どういう生き物なのかを、読者はしるだろう」と書いている。

『山背郷』は、以下の内容の短編集。(以下本書帯より)
「潜りさま」 愛息を亡くした三陸一の潜水夫の痛み
「旅マタギ」 雪崩に遭ったマタギの頭領が思いを馳せる過去
「メリイ」 犬嫌いだった少年の飼い犬との出会いと別れ
「モウレン船」 海を恐れる漁師が濃霧の夜に沖でみたもの
「御犬殿」 貧農の次男が出くわす不思議な山犬の正体
「オカミン」 亡き父との再会を願い口寄せに依頼する少年
「ヒタラ船」 北上川で水運を営む老夫婦に訪れた危機
「皆白」 山神の化身と畏れられる熊を追う熊撃ち名人
「川崎船」 手漕ぎ船と機械船をめぐる父と息子の葛藤
    
そして、待望の長編である本書で、明治時代以降のマタギについて生き生きと描いている。
マタギの話と鉱山労働の友子制度などの話が、ちょっととって付けたようにつながっているが、ストーリーの展開とともにその危惧はじきにすっ飛ぶ。
 民俗学的関心でばかりとらえられがちなマタギを、小説ならではの状況設定で明治期日本の日露戦争、第二次世界大戦などの時代の流れのなかで、山中のマタギも影響をうけてきた様などがうまく織り込まれている。

  なんと第131回直木賞受賞!
 私が贔屓にしていた作家が、大きな賞を受賞したのははじめてのことでもあり、とてもうれしいです。

   他の掲載ページ ニホンオオカミ復活プロジェクト



黄色い牙
志茂田景樹
KIBA BOOK(2002/11)
定価 本体1,600円+税
 明治、大正、昭和へと移り変わる時代のなかで「阿仁マタギ」がいかに伝統を守ろうとしながらも、歴史の大きな流れにのみこまれそうになっていくかをとてもリアルに描ききっています。
 熊谷達也と比較して読むと、表現手法の違いもみえて面白い。
 最近テレビで見る姿からは想像もつかないかもしれませんが、志茂田景樹氏の取材・描写・構成力ともにすぐれた第83回直木賞、文句なしの受賞作。

 他に歴史小説として、藩命を受けて「穴もたず」の熊に立ち向かう男をえがいた葉治英哉『春またぎ』文藝春秋(2001)もすばらしい。
    



山がたり なぞの動物たち
  続 山がたり 日本の野生動物
  続々 山がたり 大自然の動物たち
斐太猪之介 著  
文芸春秋(1971)  絶版
 今では、害獣としてか、あるいは天然記念物としてしか語られることのなくなってしまった身近な自然界の隣人である野生動物たち。その様々な生活の姿を綴ったすばらしい本です。
 著者の文章のうまさもさることながら、まだ、山に豊富な自然が残されていた時代ならではの、見事な動物たちの観察記録です。現代のいかなる自然観察読み物も色褪せて見えるほど、野生動物との「出会い」ではなく、長い「付き合い」がうかがわれる文章です。「ニホンオオカミ」や「ノヅチ(ツチノコ)」関する記述も1級の資料!
 猟犬として長く飼っていた愛犬が、ある時、眼が見えなくなって、自分が猟犬としての能力が無くなると同時に主人に反抗してだんだん離れていく姿を描いた「愛犬楢山節考」など、胸打つ話も多い。
      参照ページニホンオオカミ復活プロジェクト



山ことば辞典  −岩科山語彙集成−
岩科小一郎 著
藤本一美 編
百水社(1993/11)
定価 本体1,553円+税
山名・地名・ことがらにつけた名称の数々を整理紹介。
全国から集めた雪崩に関する名だけでも114語にも及ぶ。
 山言葉のなかには、マタギ言葉のように、他人や里人に知られないことを必須の条件としていた言葉も多く、それを破ると災いを招くと言われているだけに、本書の編集でもさぞ、災いを招いたことでしょう。
残念ながら(群馬の山の本 ブックガイド)で情報募集した「ホウ」のことは、出ていませんでした。群馬利根地方の「ホー」が出ていますが、それぞれ別の雪崩をさしています。
 この種の本は柳田国男著『山村語彙』(大日本山林会)、柳田国男・倉田一郎共編『分類山村語彙』(信濃教育会)などにはじまり、数々の本がだされてきているようですが、本書はコンパクトながらこれらの類書の成果をみごとにまとめあげています。



穴にかくれて十四年
 中国人俘虜劉連仁の記録
欧陽文彬 著  三好一 訳
新読書社(1959/02)  絶版
 ちょっと横道にそれますが、年配の方はご存知の事件かと思いますが、かつて戦時中に中国から強制連行されてきて、日本の鉱山で過酷な労働を強いられていた中国人が、このままでは死に至ることが避けられないことを悟り、必死の脱出行をはかり、北海道の山中に逃げ込んだ事件がありました。
 そのなかで本書の著者ただひとりが、冬の厳しい北海道にもかかわらず、14年間も山中で生活をし生き延びました。発見されたときは、かなり話題になりましたが、南のルバング島などで生き延びた小野田さん横井さん以上に、厳しい自然の条件下でのこと、サバイバルの記録として屈指のものであると思います。
 現実に厳しい北海道の冬を乗り越えるには、穴のなかでほんとうに冬眠状態になり、春先に体が元どおり動くようになるまで大変苦労したとのこと。
 また、食物を得るためには、人目を避けながらも、どうしても人里近くで生活する必要があった様子などを見るにつけ、クマが人里に出没する理由もなるほどと頷かせられるものがあります。
 戦中から敗戦直後の歴史をうかがわせる事件としてのみでなく、自然のなかで生き延びる人間の能力を考える上でも本書の価値は、はかりしれないものがあります。






宮沢賢治 作 中村道雄 絵  『なめとこやまの熊』  偕成社









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