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かみつけの国 本のテーマ館
 第三テーマ館 日航123便「御巣鷹の尾根」墜落事故 

「他人の死」を語ることの難しさ
(2005/07/07更新)

 

小平尚典写真集『4/524』
新潮社(1991/07) 定価 10,000円 品切れ

 この写真集は、墜落現場の遺体写真を掲載したことから、発売当時かなり各方面からバッシングされていたもので
す。
 私自身、そうした記事は見ていながらも実物は見たことがなかったので、それは酷い本がでたものだといった印象を
持った程度で、長い間忘れていました。

 ところが、県外から遙々このテーマ館に興味を持って店に訪ねてきて来てくれたお客さんのひとりである静岡県の永
田さんから、ある日電話がかかってきて、この写真集を古書店で手にいれたが、とても自分の手元にはおいておけない
ので、星野さんに引き取ってもらえないだろうかとの相談がありました。

 そして、その後の永田さんのメールでのやりとりのなかで、この写真集の持つ問題と意味が、これまでこのテーマ館
サイトでなかなか触れられずにきたことの核心にかかわる問題を含んでいることに気づき、あえて永田さんに無理をお
願いして、そのメールのやりとりの一部をそのまま転載させていただくことにしました。
 



星野様
 
昨日お電話させて頂いた永田です。
 
僕が123便の関連図書を初めて読んだのは「墜落遺体」。あの中で川上慶子さんが墜落後
そばにいた両親と妹との会話のシーンがありますが、このシーンをまるで自分がそこにいて見ていたかのような感覚を
覚えたときから僕の123便関連のコレクションは始まりました。
 
電話での写真集ですが、この写真集を知ったのは今年の初め頃、123便関連をインターネットで検索した際、偶然見
つけました。
今発売されている関連資料といえば写真がほんの少しだけ載った本ばかりですが、これは写真集とあって内容に期待
していたのです。
インターネットで古本検索してもなかなかヒットしないし、ヒットしても中古市場にあるかはわかりませんでした。それもそ
のはず、あれはアートなのです。
 
そして4月に出張で東京に行った際、神保町に足を運びましたが空振りに終わり、一昨日また
出張に行けたので、4月には行かなかった気になっていたある店に行ってみたところ、あの写真集があったのです。
 
僕はあの写真集に一体何を期待していたのでしょうか?何でもいいから事故の状況を文でなく
目で感じたかった。それもあります。でも遺体を見てみたかったというのも事実なのです。
でもそれを見たとき、じっくり見たとき、それが僕の親・知人だと思ったら、いやそうでなくても
とても胸が苦しくなりました。
一体俺は何をしているんだ!何でこんなものを探していたのか・・・辛くなりました。
そして涙がじわ〜と溢れてきたんです。
俺はこの写真集をどうするべきか?って考えたとき、すぐ星野さんを思いつきました。
星野さんならもらって頂けると・・・
苦労して入手しておきながら自分が持っているのが辛いから人にあげてしまおう。
なんて無責任ですが、かと言って捨ててしまうのはなんだか怖いんです。
もったいないのもありますが、そんなことよりもあんな惨事の写真を捨てるなんて出来なかった
んです。
でも、星野さんなら気持ち解って頂けるのではないか?星野さんに貰って頂きたいと思ったのです。
貴店に電話した時、星野さんがすぐ出られてホッとして、お話しているうちにどんどん涙があふれてきました。そして大
分気持ちが落ち着くことが出来ました。
 
写真集の代金などは気になさらないでください。僕が勝手に送ったのですから。
それよりも大事にしてください。そんな事言わなくても大事にして頂けると思っています。
 
撮影:小平尚典
題名:4/524(インターネットの検索では「小平尚典写真集」という場合があります)
現在は管理されていないHPですが、参考まで。
http://www.digitalx.ne.jp/win/vol14/moment/

 
8月8日は万座温泉、9日は草津温泉、10日は妻の実家のある石川県の金沢に行きました。
草津温泉は2年ぶり2回目。本当にいい処です。伊香保温泉にも2年前に行っているんですよ。
今回は初めての万座温泉。とっても僕好み(硫黄臭くて、濁っている)で空気はいいし、景色も
いいし、そしてホテルの食事が大変良かったです。
万座温泉ホテルに泊まったのですが、そこの食事は健康に気を使った食材でおいしくて感動でした。
山には山の食材があり、このホテルはそんな食材達を生かした食事。
同じ万座温泉の中でもホテルによっては、なんでこんなもの出すかな〜なんてところもあると聞きますが、このホテルは
違いました。温泉もいろんな種類があって楽しいし。
もう、万座温泉の虜になってしまいました。
本当に群馬っていいところですね。僕の第3の故郷です。第1は藤枝、第2は金沢(笑)





永田 様


今日さっそく写真集届きました。
どうもありがとうございます。
 
 
写真の内容は、昨日の永田さんのお電話の話や
かつてこの本が発売されたときの不評などから、開く前からかなり覚悟していたので
正直なところ予想していたよりは凄惨な写真が少なかった分、
私のはじめの印象はホッとした思いがありました。
 
 
私としては、写真集そのものよりも、永田さんのお話とメールの文に、
この写真集のもつ意味と価値をはるかに感じました。
 
「僕はあの写真集に一体何を期待していたのでしょうか?何でもいいから事故の状況を文でなく目で感じたかった。そ
れもあります。でも遺体を見てみたかったというのも事実なのです。
でもそれを見たとき、じっくり見たとき、それが僕の親・知人だと思ったら、いやそうでなくても
とても胸が苦しくなりました。
一体俺は何をしているんだ!何でこんなものを探していたのか・・・辛くなりました。
そして涙がじわ〜と溢れてきたんです。
俺はこの写真集をどうするべきか?って考えたとき、すぐ星野さんを思いつきました。
星野さんならもらって頂けると・・・
苦労して入手しておきながら自分が持っているのが辛いから人にあげてしまおう。
なんて無責任ですが、かと言って捨ててしまうのはなんだか怖いんです。
もったいないのもありますが、そんなことよりもあんな惨事の写真を捨てるなんて出来なかった
んです。」
 
私は、こんな永田さんに出会えたことを何よりもうれしく思いました。
 
 
私としては、この本の価値というものを(出版すべてに共通して感じるのですが)
遺族の気持ちを考えない興味本位の低劣なものとしてだけで片付けてしまうことには、ちょっと疑問が残ります。
 
永田さんの場合は、そうした意味ではなく、これまでこの本を
探してきた自分と、川上慶子さんなどのそれぞれ固有の人の姿を
そこにあらためて見てしまったことのショックのようなものではないかと思いますが
その固有の自分の姿と、固有の被害者の姿として捉えられることがなによりも大事なことだと思います。
 
だからこそ、こうしたものは、雑誌やTV、またはネット上などで流されるべき情報でないことは明らかで、そうした流れ方
をしたならば、それは撮影者の意図にかかわりなく、
興味本位の悪質なものになってしまうと思います。
 
 
しかし、私自身もかかえているジレンマなのですが、この事故の意味を
直接の当事者でない人々にとっての意味を問うとすると
事故原因やその後の組織対応の問題は別にして、
多分に、その意味はまさに「遺体」そのものにこそあると思っています。
 
 かたや遺族の側からは、どんな姿でも良いから亡き夫や妻、子ども、父、母に会いたい
と、必至にすがる思い。
 また当時事故処理にあたった警察、消防、自衛隊、医師、看護師などからすれば
まったく血縁でもなんでもない人びとの遺体の処理を、
その職業としてかかわるなかで、体に死臭が染み付き、食事もできなくなるような環境で
なんとか出来る限りのことをしてあげたいといった、真の職業意識にたどりついていく姿。
 
(さらにその横では、人目にふれずに法医学という立場や現場検証といった立場から、
一般には公表されない記録としての写真がたくさん残されてもいます。)
 
ホームページに文を書くとき、いつも迷うのですが、この遺体の凄惨さと
それをめぐる人々の姿にこそ、もっと多くのひとに知ってほしいものがあると思いながら
遺族のことを考えると安易に触れられない。
 
でも学ばなければならないことは、ここにこそあると思っています。
 
 
この事故に限らず、さらには人といわず、生あるものすべて、死ねば、
火葬などの葬儀をしなけいかぎり、腐り死臭に満ち、蛆がわく宿命にあります。
それは明日の自分の姿でもあります。

     朝(あした)には紅顔(こうがん)ありて 夕(ゆうべ)には白骨となれる身なり
                             蓮如「白骨の御文章」より

不慮の死に限らず、「死」というものを
商業化した葬式仏教などにあずけることなく、
もっと私たちのところに取り戻す作業がこれから必要だと思います。
 
それは常に、死一般ではなく、私の死、妻の死、私の父の死、私の子どもの死といった、
永田さんのようにそれぞれ固有のものとして受け止める感性をもってのみ、意味をなす作業であると思います。
 
まさに死や遺体の悲しみから立ち直る過程も、十人十色のそれぞれの境遇、プロセスがあり、
その一般化できない、それぞれの姿に、真実があるものだと思います。
そこになんらかの縁あってかかわったとなりの一人が
目をそむけることなく、他人のせいにすることなく、
自分が思いやる気持ちは、どうやったら生まれてくるのでしょうか。
どんなときに育つのでしょうか。
 
これこそもっと私たちが語らなければならないことと思います。
 
ちょっと長くなってしまいましたが、
永田さんの好意、なんとか私のほうで活かせるようにもう少し考えたいと思いました。
またご相談したいこともありますので次回にまたメールします




 こうしたやりとりを公表して、この写真集について話すことができるのも、事故から時間が経ったからこそできることで
す。
 時間が経ったからこそ話せること、時間が経っても忘れてはいけないことを、もっともっと根気よくつづけていきたいと
思います。
 永田さん、ありがとうございました。




2004年12月。
この写真集を出された写真家小平尚典さんご本人からメールをいただきました。
ご承諾をいただき、ここに転載させていただきます。


正林堂 星野様
初めまして、小平尚典と申します。
久しぶりに東京で、インターネットを検索しておりましたら、星野さんの文章を読む事になりました。
すでに20年近くの歳月が流れ、私も米国に移住して18年ほどの歳月が経っております。
未だに、123便の事故の話題があるというのも不思議な感じですが、興味深く読ませていただきました。
お話する事は多々あるのですが、しっかりと事故問題点を考えられており恐縮しております。
正直海外では非常に高い評価を受けました。2000年の英国BBC20世紀の報道写真家特集にもあの写真集とともに紹
介されました。
一度チャンスがあればお会いして、じっくりお話させていただきたいと思っております。
取り急ぎご連絡まで。
小平尚典
追伸、あの写真集は、新潮社では絶版になりましたが、米国で印刷した関係で多少在庫があります。

  参照  http://homepage.mac.com/nkohira/index.html


小平さんの最新刊のご紹介


   

『彼はメンフィスで生まれた アメリカン・ジャーニー』
安西水丸・文 小平尚典・写真
阪急コミュニケーションズ(2005/07) 定価 本体1,800円+税

あとで知ったことなのですが、小平尚典さんは、このサイトのなか数ヶ所で紹介させていただいている
池田知加恵さんの「雪解けの尾根」の写真も担当されていました。














関連おすすめ書

 
喪の途上にて  大事故遺族の悲哀の研究
野田正彰 著
岩波書店(1992/01) 定価 2330円+税


 

「心の専門家」はいらない
小沢牧子 著
洋泉社(2002/03) 定価 本体700円+税

 この日航機事故や阪神淡路大震災などの経験を通じて、被害者の「心のケア」の問題が注目されるようになり、アメリカ流に災害や事故にあわ
れた人びと、さらには教育の現場などにカウンセラーの派遣がしきるにさけばれていますが、著者はその「心の専門家」派遣の傾向には、大事な
問題のすり替えが隠されていると警鐘を鳴らしています。

 さまざまな災害や事故などの起きてしまった事実に対して、それぞれの当事者(加害者、被害者)がきちんと向き合って克服していくプロセスなか
にこそ、真実の人間の姿があるのだと思います。それを抜きにした法律論議、保証金問題、組織論は、無意味とはいいませんが、問題の核心か
ら目をそらせてしまっている場合が多いといえないでしょうか。

「・・・・・ここにカウンセラーを派遣しカウンセリングを受けさせようとする側と、それを受ける側との間に起きるズレと溝を見ることができる。
 わたしが家族の立場だったら、と考える。その場で自分が望むのは確実に次のことだ。いったい何が起こったのか、その事実を少しでも正確に知
りたい、そして相手方はできるだけ詳しく誠実に説明しようとしてほしい、さらに謝罪の気持ちの伝わる態度を表明して欲しい。それが被害者に対
する最低の礼儀であり、とるべき行為である。カウンセラーの派遣?ちょっと待ってくださいよ、その人は何をしに来るんですか?わたしの怒りを治
めに来るの?結構です。私は怒りつづけて泣きつづけます。息子が行方不明になったきり帰ってこないんですから。あなたの代わりにに艦長(*え
ひめ丸事件)に来るように言ってください、それが筋であり礼儀というものでしょう・・・・・。(154ページ)







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