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かみつけの国 本のテーマ館
 第三テーマ館 日航123便「御巣鷹の尾根」墜落事故 

責任のゆくえ




 組織(国家や会社、家族など)の中の一個人の責任の取り方、誠意の示し方などを考えるとき、私は対照的なふたつ
の姿が思い浮かびます。

 ひとつは、やや古い例を引き合いに出してこの議員には申しわけありませんが、ある若い女性国会議員が国会で不
戦決議かなにかの採択が議事にあがったおりに「私は戦争当事者とはいえない世代だから、反省なんかしていな
い。反省を求めるいわれもない」と発言したことです。時も経ち、この議員が当時の発言を今どう思っているかはわか
りませんが、一人の国会議員の発言として考えるとこの発言の意味はとても重い。また、こうした発言が、あたかも自
然に出てきたことの背景を考えれば、決してこれを偶然の発言ともいえないものがうかがえます。


 もうひとつは、日航機の御巣鷹山墜落事故のあと、会社の業務命令で直接的には事故となんのかかわりもないとも
いえるような部署の社員が、遺族との間の交渉や世話役の担当となり、事故直後は被害者の家族や親戚、関係者な
どから罵声をあびながらも、時には遺族の側に立ちすぎていると自分の会社側からも非難されながら、黙々と自分の
職務に忠実に事後処理にあたっていった人達での姿です。それらの日航社員は、遺族側に立ちすぎていると左遷され
てしまった社員も多いようですが、10年以上経っても毎年、御巣鷹山に通い続け、登山道や墓標の修復、整備にああ
っている社員の姿もあります。

 もちろん、日航の会社としての対応は、この一部の社員の姿で免罪できるようなものではありませんが、かたや、過
失の当事者でありながら、誠意を持って責任をまっとうしようとしない人間、かたや加害者責任を問われる立場でなくと
も、精一杯被害者のために尽くした人々。この対称の構図のなかにこそ、これまで賠償交渉で癒されないひとびとのこ
ころの問題の真の解決の糸口があるのではないでしょうか。

 同時に、御巣鷹山事故後、日航の改革に乗り込んだ伊藤淳二会長の責任感、使命感といったものも、単なる人望、
人徳のなせる技だけではなく、組織を代表して責任を負うものの必然として捉えられるべきものでもあると思います。




 一口に責任の取り方といっても、組織を代表する立場の人間の責任の取り方の場合もあれば、なんの権限もない
が、たまたまその組織の一員であったために責任を負わされる場合もあります。
 また、事例で見るならば、最近、検定教科書問題で騒がれている日本の戦争責任のような国家問題もあれば、公務
員や企業の不祥事が起きた時の代表者や管理責任者の責任と、現場の直接の当事者に問われる責任の問題もあり
ます。

 これらどれも決して同列に扱うことはできない問題ですが、私は先にあげたふたつの事例は、国家や企業組織の「責
任」というものを、個人がどう担うか考えるうえで重要な対局の要素をすべて内包しているように思えてなりません。

 この御巣鷹山に今も登り続けている日航社員の行為を支えているものはなんなのでしょうか。

 もちろん、会社や職務に対する忠実さなどといったものだけでは、とてもできないことであろうと思います。上っ面の正
義感などでも決して成し得ることではないでしょう。(山崎豊子の「沈まぬ太陽」(全5巻)にそのあたりの人間の姿が見
事に描かれています。)



 事故後の惨状を体験していないものが、勝手に推しはかれるものではないでしょうが、あの事故後の惨状を直接体
験した遺族、日航社員、事故処理にあたった警察や医師、看護婦たち、さらには上野村や藤岡市の人びとの間で共有
している、なにか特別な意識が、今後も御巣鷹山へ絶えることなく多くの人の足を運ばせ続けるに違いないと思いま
す。

 はじめに引用した国会議員の言葉は、言葉の是非よりも、「そこに起きた現実に対する感性の欠落」の問題としてと
らえるべきことだと思います。それはちょうど、すさまじい遺体探しを遺族とともに経験した日航の一期目の世話役の姿
勢と、補償交渉を主な仕事とされた二期目の世話役の姿勢の違いにもいえることです。

 もし、御巣鷹山へ通い続ける日航社員のような姿が、もう少しアジアの国々との間にもあったならば、戦争責任や教
科書問題の議論ももっと冷静な議論が可能になっていたのではないかとも思えますが、話が飛躍しすぎているでしょう
か。




 伊藤淳二元日航会長が、著書「天命」のなかで、昭和19年にニューギニア・カミリ飛行場守備隊全滅の英霊に捧
ぐ、として、たおれた兵士たちの写真とともに以下のような詩をよせています。

      この人たちは
        この時点において
         時と戦ったのだ。
       時の断絶と戦ったのだ。
        そして生命をかけた。
         そして生命を
        銃弾で引き裂かれた。

     生命を引き裂かれたが
      時は引き裂かれなかった。

     この人たちが
      生命をかけて戦った
       その時点の延長に
       「今」がある
       「今」の平和がある。
       その平和の中に
        私たちの生命がある。

     この人たちよ!
      壮烈にその生命を
       時との戦いに失った
      この人たちよ――。

     時がジリジリと流れ
      そしてその時の流れの中に
     この人たちの
      生命の匂いが
        漂う。

     この人たちの固く結ばれた
       口から
     悲しい声が聞こえる。
      ――俺は死んだ。
      しかし
       時を守った――と。
  
     そして
      この人たちの
     固くとざされた双の目から
      熱い涙が
       流れる。
     その涙よ――。
       その涙が
       「今」をにじませる。

     そのにじみを
       「今」が伝え
       私の目を
      にじませる

     ああ
      この人たちよ――。


  写真をいっしょに掲載できないのが残念ですが、二度目の召集をうけたとして単身、日航に乗り込んだ伊藤元会長
の、姿勢をも窺わせる強烈な詩です。



 日航機の御巣鷹山墜落事故をふりかえると、事故処理と今後の安全のための教訓の問題ばかりでなく、遺体と「い
のち」の問題や責任と誠意の示し方の問題などを考える素材の「宝の山」と言っては失礼かもしれないが(ちょっとうま
い表現が思い当たらなくてすみません)、これからの社会にとって貴重な財産を残してくれている思えてなりません。
 






「責任のゆくえ」について考える視点を与えてくれるおすすめ本 


 
         金子 勝 著 「月光仮面の経済学 さらば、無責任社会よ」
             日本放送出版協会 (2001/11)  定価950円+税


かつてのヒーローや正義の味方は「どこの誰だか知らない」ひとが、
たったひとりで敵に立ち向かう姿があたりまえであった。
それが、いつの間にやら「なんとかレンジャー」に限らず、
正義の味方はみんな徒党を組んで闘うものばかりになってしまった。
ひとりでも闘い、ひとりでも責任を取る姿を忘れてしまっているのではないか、と。

さらに蛇足ながらかつてのこのヒーローは、若者やお兄さんではなく、
月光仮面のオジサンだ!


        奥村 宏 著 『無責任資本主義』 経済新報社  (1998/12)  定価1600円+税
  


                野田正彰 著 『戦争と罪責』  岩波書店 (1998/8) 定価2300円+税

 



   カレル・ヴァン・ウォルフレン著 『人間を幸福にしない日本というシステム』
                       毎日新聞社  (1994/11)  定価1748円+税
文庫版
  




              山本善明 著 『日本航空事故処理担当』
               講談社  (2001/03)  定価 880円+税
                                        


           河上和雄 著 『責任の取り方、誠意の示し方』
              講談社  (1998/06)  定価1400円+税
      責任や誠意は、形式の問題ではなく、その本人が感じなければ意味が無く、相手へ気持ちも伝わりよう      がないという基本を
明示した簡潔にして明快な本でおすすめなのですが、残念ながら品切れ。
                                                                              
 
飯久保廣嗣
『情報開示と責任のとり方 グローバルスタンダードの危機管理』
かんき出版(1997/12) 定価 本体1,500円+税

私のブログ「かみつけ岩坊の雑記帖」より「責任」についての関連記事
武士道とアリストテレス 前篇
武士道とアリストテレス 後編


                                                    文 ・ 星野 上

                                                                                                                                       

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