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第四テーマ館
磔茂左衛門伝説は、現存する訴状の写しの信憑性などから、史実としては認め難い側面を持っていますが、永く語り
継がれ、地元の月夜野町では茂左衛門信仰として定着していることもあり、決して黙殺できるような伝説ではなくなって います。
そのストーリー自体も、よく比較される佐倉惣五郎伝説よりも、はるかにドラマチックな展開をもっています。
真田伊賀守の沼田藩取り潰しに至る騒動を背景に生まれたこの茂左衛門伝説は、義民伝説としてばかりでなく、ひと
つの藩政の責任者や役人のありかた、幕府の調査、調停能力などを見る上でも大変興味深い内容をもっています。
しかし、これも残念ながら、現在一般の人が入手可能な本がないばかりに、今の若い人たちに伝えようにもなかなか
手段がなくなってしまっている悲しい現実があります。 ![]()
茂左衛門伝説は明治20年頃から有名になりだしたようですが、中之条の駒形荘吉による『上毛義人磔茂左衛門』
(明治28年)がまずはじめにあらわされ、2年後には藤沢紫紅が『沼田義民伝』(大正元年)を出している。
藤森成吉の戯曲の上演と、野口復堂の講談「磔茂左衛門」(大正4年)で全国に知れ渡るようになったようです。伊賀
守が徹底した悪人に描写されるなど、かなり人物やストーリーも単純化されていますが、当時ひとびとに熱狂的にうけ いれられてであろうことがうかがわれます。
共立女子大学図書館が所蔵する故北村喜八氏旧蔵の築地小劇場及び劇団築地小劇場の検閲済上演生台本(全98
冊の中から、特に修正の目立つ24冊を厳選)を影印復刻し、全検閲箇所を明示した改題と総合解説を附した全12巻の シリーズが、ゆまに書房より刊行されていましたが既に品切れです。(『磔茂左衛門;故郷;母 築地小劇場上演台本 集』 第9巻 定価 本体12,000円 ゆまに書房1991年)
この本がアマゾンのデータに出ていましたが、取り寄せに1ヶ月以上かかるとのことで、出版社に在庫が無いものをネットショップで1ヶ月かけて
どうやって入手するのか聞いてみたかったのですが、このような高額本を待ちきれず、キャンセルしてしまいました。(2002/04) ![]()
藤森成吉の作品から時を経て、各種研究資料も出揃い、史実にかなり忠実に描き、なおかつ登場人物の性格を見
事に描き出した松本幸輝久による本書は、磔茂左衛門伝説のストーリ語るうえで、最も定本になる本であるといえま す。
もちろんフクション相応にそれぞれの登場人物に脚色されていますが、史実で伊賀守が取り調べを受ける際、一切の
申し開きをしなかったといわれていることから、本書ではかなり、最後には悟りを開いた好人物に伊賀守が描かれてい ます。
沼田藩騒動の全体像を見事に浮き彫りに描ききっている本としても、本書は注目されます。
最も興味深いのは、唯一良心的な見識を持ち合わせた家老の鎌原(鎌倉)縫殿が、結局、暴走する藩主や家臣たち
に対してなにをすることもできず、とどのつまり、自らの職責をなにも果たさず高禄を食んでいる姿が、現代の官僚や管 理職に生き写しに描かれていることです。
「・・・・誰一人伊賀に節約を進言する者はない、鎌倉と雖も同様である。伊賀は百姓のことなど知らないから要るだけは使うし、伊賀に気に入ら
れようとする家臣達は無理算段に狂奔する。鎌倉はこの時になって、はじめて若干の抵抗をやり、それで苦しむのである。水を上流でせきとめず、 下流でせきとめようとするのだから労多くして効果はまことに微々たるものとなってしまう。従って百姓には人気があっても家中からはどうも妙な目 で見られ勝ちとなってくる。」
しかもこの鎌原(鎌倉)の家老職というのは、家臣のなかでも突出して五千石を越える禄高をもらっているのである。
一般の重臣たちは、500石とか800石程度であるというのに。
もし、あなたが家老鎌倉の立場だったらどうしますか?
さらに、魅力的な登場人物である茂左衛門に入れ知恵してくれる坊さんの法印は、仏教の教え、「方便」の真骨頂を
発揮した姿がなんとも印象的です。
是非、図書館で見つけて読んでみてください。
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